「ハンカチは確かに受け取りました。……でも、これはまた貸しね?」
 完全に秋斗さんに向き直っていた私は、しっかりとジャケットの前を合わされてしまう。
「身体、冷やさないように」
 そう言うと、秋斗さんは図書棟に向かって歩き出した。
 秋斗さんの格好はいつもと変わらない。
 白衣の中に着ていたのはVネックの黒いカーディガン、白地に薄いブルーのストライプシャツ。
 ボトムスはベージュのチノパンだった。
 たぶん、あの格好は秋斗さんの作業着みたいなものなのだろう。
 秋斗さんの姿はどんどん小さくなっていくのに、私を包む香りの存在感はしだいに増す。