家に帰れば逃げるようにお風呂に入り、夕飯の席では食べることに専念する。
 食べ終わると、勉強を理由に部屋に篭った。
 知りたいことはたくさんある。
 訊きたいこともたくさんある。
 でも、それを尋ねることは私の記憶が戻ったことを意味してしまうから、訊くに訊けない。
 今日、秋斗さんに訊いてしまったのは失敗だったと思う。
 記憶が戻ったと気づかれていたらどうしようか、と気が気ではない。
 怖い――。
 何を考えるよりも、その感情が先に立つ。
「翠葉?」
 部屋の外から蒼兄の声がした。
「はい」
 私は咄嗟に英語のノートを広げる。