廊下を見ていると、
「びっくりすると泣き止むんだ?」
 司先輩に言われて、泣いていたことを思い出す。
「あ……えと、ごめんなさい……?」
「別に謝らなくてもいいけど……。あんまり無理はしてもらいたくない」
「……なんだか、全部が無理なことに思えてきてどうしたらいいのかわからないです」
 すると、玄関から栞さんの声が聞こえてきた。
「美鳥(みとり)さん、またやっちゃったのね?」
 ミトリさん……? 美波さんではなくて……?
 それにしてもミトリとはどういう漢字を書くのだろう。
「あー……そのようだ。申し訳ない」
 と、ハスキーな声が聞こえてくる。
 ……女の人?
「ずいぶんとお疲れみたいですね?」
「バカ兄貴たちが急に海外へ行くとか言い出すからだっ! こっちは締め切り前だというのにっ」
「もし良かったら、今日、うちでご飯を食べていきませんか? 食材が余ってるの」
「……栞くんが天使に見える……」
「あああ、ちょっとっ! ここで寝ないでくださいっ! 蒼くん、美鳥さんを奥に運んでもらってもいいかしら?」
「……了解です」
 会話だけが次々と聞こえてきて、ドアの前を蒼兄が通るとき、声の主が見えた。