テラスを歩くと一、二年棟に着くまでに何度か声をかけられた。
 顔と名前が一致する人は少なく、見たことがあるかも、という人が少し。
 それでも、紅葉祭前と比べたら、だいぶ見知った顔が増えたように思う。
 どの人も手を振って「バイバイ」という程度のものだから、とくに困ることはなく、私は軽く会釈をしてその場を通り過ぎた。
 靴に履き替えると、教職員用の駐車場へ向けて歩きだす。
 けれど、どうしても前に踏み出しづらく、一歩一歩の歩幅がひどく狭い。
 私は仕方なしに時計を見ることにした。
 こういうとき、時間の無常さは色んな意味で有効。
 病院に間に合わなくなるから――そう自分に言い聞かせ、駐車場へと急いだ。