その場で慌てているのは私ひとりで、ほかのメンバーは何を言うでもなくふたりのやり取りを静観していた。
「あぁ、面白くないな。秋兄の言うとおり、翠と秋兄が一緒にいるのは面白くない。そう言ったらやめてくれるわけ?」
 ツカサは絶対零度と呼ばれる笑みを添えて言葉を返す。
「まさか。誰にお願いされてもやめるつもりなんてさらさらないよ。翠葉ちゃんが応じてくれる限りはね」
 声には抑揚を感じるものの、秋斗さんとツカサが笑顔で言葉を交わすたびに険悪さが増す。
 ピン、と張り詰めた空間に異質な風が舞いこんだ。
 電子音が鳴り、久先輩が「イェイッ!」と白いファイルを掲げて入ってきたのだ。
 久先輩は図書室内の異様な雰囲気に気づいたのか、「ん?」とあたりを見回す。