不思議と、教室のドアを怖いと思うことはなかった。
 あの、底知れない不安はどこにもない。
 桃華さんが一緒だから、とかそういうことではなく、たぶん、私の中の何かが変わった。
 そんな気がした。
「翠葉……? 入らないの?」
「あ、ごめんっ」
 慌てて教室に足を踏み入れ、席に着くと桃華さんに訊かれる。
「まだ怖い?」
「ううん、その逆。全然怖くなかったの」
 桃華さんは驚いた顔をしたけれど、次の瞬間には笑顔になった。