先日、翠の部屋で見せられた香水の香り。
 やっぱり、こっちのほうが好きだと思った。
 別に、秋兄のつけているものが嫌いというわけではなく、ただ、あれを翠がつけることに抵抗がある。
 あの香りを纏われると、まるで秋兄の「所有物」のような気がするから。
 翠は俺の胸に耳を当てたまま動かない。
 自分だけ、とか思うな……。
 俺だって、今まで感じたこともないような動悸を感じている。
「これが冷静な人間の鼓動だって言うなら冷静なんだろうな」