腕にしっかりと翠を抱いて現実を感じる。
 今起きていることが「夢」ではないと。
 夢と現実を錯覚するなんて俺らしくもない。
 でも、あまりにも唐突すぎて咄嗟に判断できなくなることがあると知った。
「誰が冷静だって? 普通に見えるって?」
 俺だってとうに冷静さなんて失っている。
 今の俺が冷静に見えるというのなら、翠の視力は相当悪いと思う。
 現に、俺は衝動を抑える余裕もないというのに……。
「ツカサが……」
「その耳は飾り物か?」
 翠の頭を自分の胸中央にずらすと、ふわり、と香りが動いた。