普段ならそんな真似をする人間はいないだろう。だが、今は違う。
 俺たちがここにいることを知らないのだから思ったことを口にするだろう。
 連中の声が聞こえなくなってから手を外すと、翠が俺の顔を見上げた。
「ツカサ……少しでいいの、座って休んでもいい?」
 会話の内容を訊かれると思った俺は違う話題に安堵する。
「あぁ」と答えようとした瞬間、翠の重心が傾いだ。
 身体を支えたとき、髪の合間から見えた唇は白っぽく見えた。
「悪い」
「ツカサは悪くないよ。ただ、少し疲れているだけなの」
 翠は力なく答えた。