翠が身体の向きを変え図書棟に向けて数歩踏み出したとき、滝口の隣を歩いていた男が翠を呼び止めた。
「翠に何か?」
 満面の笑みで答えてやると、その男は少しうろたえる。
 次はなんと畳み掛けてやろうか――。
 そう考えていたところ、
「ツカサっ? あのね、鎌田くんは友達なの」
 中学の同級生に「友達」がいるなんて初耳だけど?
 俺は気づかず翠にも厳しい視線を向けていたのかもしれない。
 必死にその男を庇うのと同時に、翠は俺の視線に耐えられないとでもいうような素振りを見せた。