俺は部屋を閉め出されてもリビングへ行く気にはなれず、廊下に座り込んでいた。
 部屋からは少しくぐもった声が聞こえてくる。
「で、今日の一時前頃、何があったのかな?」
 これは蒼樹の声だな。さて、君はなんて答える?
 それ以前に、彼女の細く小さな声は聞こえるのだろうか。
「あ……――えと……」
 聞こえた……。
 高い声は通りやすいらしい。事実、彼女の声は蒼樹の声よりもだいぶ小さいのだから。
「「うん」」
「……秋斗さんの家へ移動するとき、どうしても抱っこされるのが恥ずかしくて――秋斗さんがお部屋を片付けに行っている間に高崎さんに運んでもらってしまったの……」
 それか、そっちを話すのか……。
「ひーめー……そりゃ、あの人落ち込むっていうか怒るかも」
 若槻よ、わかってくれるか……。
「……すごく怖かったです」
 君は若干正直すぎ。
「俺、先輩の本気の相手って見たことないからさ、こんなに嫉妬深いとは思いもしなかった」
 うるさいよ。蒼樹が知らない以前に俺自身が驚いてるというのに。
「それは右に同じくですけど……。あの人、午後の時間を融通できるように、午前の仕事量半端ないから」
 若槻、もっと言って。多少盛ってもかまわないから。