彼女をエスコートして廊下を歩くけれど、翠葉ちゃん、君の靴はないんだよ?
 きっとそんなことには気づかず玄関に向かっているのだろう。
 案の定、玄関まで来て彼女は呆然とした。
「やっぱり抱っこだね」
 と、彼女に何を言う間も与えずに横抱きにすると、「きゃっ」と小さな声があがり、すぐに顔を髪の毛で隠そうとする。
「葵には腕を回していたのに、俺にはしてくれないの?」
「高崎さんは特別です……」
「……それ、面白くないな」
「……だって、蒼兄と同じ気がするから」
 もうさ、俺も本音で話させてもらっていいかな?
「なら別にいい、とか言ってあげられるほど心は広くないんだよね」
 口にしてすぐ、彼女の唇を奪う。まるで苺でも食むように。
「っ……秋斗さんっ」
「何? 誰も見てないよ?」
 本当は誰が見てるとか見てないとか、そういう問題じゃないんだろう?
「……秋斗さんは慣れているのかもしれないけど、私は……私は、慣れていないんです」
 ほらね……。
「俺だって好きな子にキスをするのは慣れていないけどね」
 そう言うと、無言で靴を履き、身体を使って玄関のドアを開け家を出た。