「さて、そろそろゲストルームへ戻ろうか」
 もう五時を回っているし、そろそろ栞ちゃんも帰ってくる頃だ。
 彼女はベッドサイドの時計を見て、「はい」と答えた。
 その彼女を抱きかかえようとすると、手で遮られる。
「あのっ……歩けるかもしれないから、だから……手を貸してもらってもいいですか?」
 確かに、今日は多少身体を起こしていられたようだけど……。
「俺に抱っこされるのはそんなに嫌?」
「……そういうことじゃなくて、自分で立てるなら自分で立ちたいし、歩きたいから……」
「……了解」
 この時点で今までの女たちとは違う。普通なら喜んで抱き上げられるものなのに。
 翠葉ちゃん、今の言葉は信じていいのかな? 他意はないと、信じてもいいかな?
 でも、今日は色々しちゃったからなぁ……。それに拍車をかけて美波さんの性教育ときたもんだ。
 彼女が今、心の中で何を考えているのかはちょっと想像しがたい。
 彼女が今まで受けてきた性教育がどんなものかも知らなければ、学校で行われる性教育に彼女が出席できていたのかも危うい。
 本は好きだと聞いているけれど、どんな本を読むのか……。まさか濃厚なラブシーンが出てくるような本を読んでいるとは到底思えない。
 よこしまなことを考えている俺の目の前で、彼女は上体をゆっくりと起こし、ベッドに腰掛けるようにして足を下ろした。そして、いつもと同じように深呼吸をいくつかしてから立ち上がる。