「もちろん! 翠葉お姉ちゃん、お姉ちゃんは秋斗お兄ちゃんのお姫さまなのっ? 僕に乗り換えない? 僕のほうが若いし長生きするよ?」
 拓斗の言葉に面食らったのは彼女だけじゃない。俺もだ。
 なんていうか、こんなところに伏兵がいたとは……。しかも、どっかの誰かと違ってかなり積極的だ。
「……あの、秋斗さん? 美波さん?」
 説明を求められても苦笑しか返せない。すると拓斗が、
「僕のキスで起きてくれたら良かったのにぃ……」
「えっ!?」
 真っ赤になってうろたえる彼女がかわいすぎた。これはこれで見てる分には楽しいけど、でも――。
「拓斗にだって譲らないよ? このお姫様は俺の」
 と、彼女の髪をかき上げうなじに吸い付く。
「はい、終了。俺の刻印付きですから」
 彼女の髪を上げたままキスマークを見せ付ける。と、
「秋斗お兄ちゃんずるーい……」
 拓斗の冷たい視線を受けつつ、
「拓斗は拓斗のお姫様を探しなさい。じゃ、俺は仕事に戻るから。美波さんはゆっくりしていってください」
 俺は立ち上がり様、挨拶のように彼女の額へキスを落とし、寝室をあとにした。
 仕事部屋に戻ってツールバーを見れば、彼女の脈拍はすさまじいことになっていた。
 でも、やっぱり俺は得したんだろうな。まさか、彼女にキスマークをつけられるとは思ってもみなかった。
 そういう意味では拓斗に感謝しなくてはいけないだろう。