その意味を翠葉ちゃんはわかっているのかな。
 司は昇降機下からモニターが見える位置まで移動して、「翠?」と彼女の名を呼ぶ。
『お願いっ、十、数えてほしい』
 俺たちには「十」という数にどんな意味があるのかはわからない。でも、司にはわかるのだろう。
 司は了承の旨を伝え、静かに数を数え始めた。
 十を数え終わると再び「翠」と呼びかける。
『……大丈夫。ありがとう』
 彼女がステージ上で顔を上げると、それを合図にしたかのように演奏が始まり、それまでのステージと変わらず、落ち着いて歌を歌い始めた。