今日の自分は翠に振り回されっぱなしだった。
 そんなことを思いつつ、歌を口にしては隣の翠に視線を向ける。
 最終便で佐野が上がってきて、翠の右側に並んだのを見たら肩の荷が下りた気がした。
 観覧席にいる人間たちは奈落での出来事を知らない。
 それだけに、最終演目をまるで祝うように楽しんでいた。
 まぁ、実際に「祭り」なわけだけど、俺にとっては散々な「祭り」だった気がする。
 さっきまで泣いていた翠は隣で笑っているし……。
 俺の視線に気づいた翠は、少し考えてからにこりと笑った。
 その「少し」の間すら気になる自分をどうにかしたい……。
 俺は疲労と落胆でこの日のステージを終えた――。