「やだね。俺が彼女と何を話してたのかなんておまえに関係ねーじゃん」
 風間は翠に向き直ると、
「御園生さん、それこそ言わなくていい。頼まれたことは聞ける状態じゃなくなっちゃったけど、もうひとつの約束はちゃんと守るから安心して? 指切りの効力は消えないから」
 その言葉に翠は再度頷き、俺は「指切り」という言葉に反応する。
 さらに続くふたりのやり取りすら許容できそうにない。
 風間が立ち去り、早くこれらをどうにかしなくては、と思う。
「これら」とは、震えている翠と制御不能に陥った自分の感情のふたつ。
 自分の感情に関しては、翠がいればどうにかできる。
 ただ、翠に触れられればそれでなんとかなる、とそう思っていた。けど――。
「……とりあえず、手」
 保険屋らしく手を差し出すものの、その手に翠の手が重ねられることはなかった。