強くも優しくもない単なる男だ。
 嫉妬すらコントロールできない強欲な人間。
「翠、何を風間に頼んだ?」
 そんなことを訊かれるとは思っていなかったのだろう。
 どうして俺が「約束」のことを知っているのかもわからないはずだ。
 見ていた……。
 ずっと、翠だけを見てきた。
 なのに、どうして気づかない?
 何度となくこみ上げてくる感情に、そんな思いはいい加減に捨てろ、ともうひとりの自分が叱咤する。
「知ってたけどさ、おまえやっぱ鬼だろ? こんな震えてる子に何その対応」
「風間は黙ってろ」
 威圧するように睨んで見せたが、風間はそれで黙る男ではなかった。