翠の座っていた場所からそこまでは数メートルほど離れている。
 なんのために移動した?
 浮かぶ疑問を早く解決したい一方、もうひとりの動向も気になり付近に視線をめぐらす。
 それは探すまでもなく早くに確認が取れた。
 警備員は動いている。
 なら、身の安全は守られるだろう。
 改めて翠に視線を戻すものの、誰かに向かって話しているのはわかるが、人が邪魔で相手が見えない。
 翠の唇が「お願いがあって」と動いた直後、翠の姿も人で見えなくなった。
 人は止まることなく行き交い、ほんの少し見えたかと思えばすぐに見えなくなる。
 そんな時間が数分続き、気づけば奥歯に力が入っていた。
 くっそ――。