昇降機が上がりきる寸前、「ツカサっ」と翠の声がインカムから聞こえてきた。
「翠?」
 声から切羽詰まった感じが伝わる。
『お願いっ、十、数えて欲しい』
 モニターを見れば、不安そうな顔をしている翠の姿が映る。
 ステージにひとりというのはこれが初めてか?
 本人も途中でそのことに気づき心細くなったのだろう。
「わかった」
 これで感情の切り替えができるのならお安いご用だ。
 数を数え終わり翠に声をかけると、
『……大丈夫。ありがとう』
 通信はそこで途絶えた。