奈落に戻ると、翠は嵐に最後の化粧直しをされていた。
 塗られたばかりの艶やかな唇と共にこちらを向く。
 一瞬目が合い、すぐに逸らされた。
 ……故意的?
「何」
「なんでもない」
「なんでもないっていうのは、そう見える顔と声を出せるようになってから言え」
「……じゃ、何かあるけど言わないだけ」
「ふーん……じゃ、あとで容赦なく問い詰めようか?」
「知りたい」という気持ちを抑えられそうにない。
「訊かれても答えられないものっ」
「なんで……」
 思わぬ答えに内心驚く。