コーラス部のラスト、茜先輩のソロが始まるとあたりがしんとする。
 声だけで曲が紡がれる。
 無伴奏というよりは、歌声自体が伴奏を担っている曲だった。
「涙、拭こうか?」
 聞き慣れた声に振り返ると、翠がボロボロと涙を零した状態でモニターを見上げていた。
 朝陽に言われたことで自分が泣いていることに気づいたようだ。
「人目憚らず、まぁ、そんなにボロボロと……」
 朝陽が翠の頭に手を乗せる。
 やめろ……。
 途端に腹立たしさを感じ、この感情をコントロールできないものかと考える。
 朝陽に下心があるわけじゃない。
 わかっていても、ほかの男が翠に触れることを許容できそうにない。