つけていなかったことを知っていつつも、「外すな」の意味で口にする。
 当然、インカムを外していたことを知らないと思っている翠は謝る。
「ま、調弦するのにインカムなんてつけてられないよね? 代わりに俺が応えたんだからそう怒るなよ」
 朝陽が預かっていたインカムを翠に返すと、翠はすぐに装着した。
「休憩を取るのに図書棟に戻るから」
 ほんの短時間、翠が目の届かないところにいただけでイライラしている自分がいる。
 こんなの、どうやって慣れろって言うんだ……。
 無言で第四通路を進むものの、後ろから聞こえてくる足音は少しずつペースが落ちていく。
 持っていた携帯を見てみるものの、数値に異常は見られない。