「……ほら、飲み物」
 一位にはなれなかったしいつ言おうとかまわないわけだけど、一位争奪戦に参加しておいて何も言わないのもおかしな話だ。
 ペットボトルを離す瞬間に「ありがと」と小さく呟いた。
 ある意味、聞こえなくても良かったくらいなのに、そんなときに限って翠はしっかり訊き返してくる。
「え? お礼を言うのは私のほうだよ……?」
「そうじゃなくて――歌……」
「あ……」
 羞恥からか、語尾が粗くなるのを抑えるのがせいぜい。
 さっきまでならとっとと俺から視線を逸らしていた翠が、今は食い入るように俺を見ていた。