「あ……味が濃い?」
 彼女は苦笑いで頷いた。
 そっか……だから校内で飲めるものがミネラルウォーターだけなのか。
「……そういうの、遠慮しないで言ってね?」
「はい……」
 彼女のことをひとつずつ知っていきたい。彼女を見て、彼女の口から聞いて、少しずつ、少しずつ……。
 そんな時間がひどく大切なものに思えた。
 彼女は嬉しそうに苺タルトを口にし、咀嚼して飲み込めば今度はグラスに手を伸ばす。
 グラスやカップを両手で持つのは癖なのかもしれない。その仕草がかわいい。
 "妖艶"なんて言葉からはほど遠い彼女なのに、どうしてかこんなにも"男"である自分を意識させられる。
 それは司もなのだろうか……。
 いや、あいつはまだそこまでたどり着いていないような気がする。もし、それに気づいてしまったのなら彼女の側に近づけたくはない。
 葵は? ――いや、あれは除外だな。
 彼女があそこまで普通に接することができるのは蒼樹だけだ。つまり、兄と同等にしか見ていないということ。でも、葵のほうはどうだろうか……。まさか親友の妹に手は出さないか。
 ――俺、自分のこと棚に上げてるかも……。
 そんなことを考えていれば彼女がピルケースから薬を取り出すところだった。
「秋斗さん、ごめんなさい……。これを飲むとどうしても眠くなっちゃうんです」
 申し訳なさそうに俺を見る。
「かまわないよ。そこのドアの向かいの部屋で仕事してるから。ドアは開けたままにしておく。定期的に見にくるから何かあればそのときに言って?」
「はい」
 キッチンで洗い物を済ませ寝室に戻ると、早くも彼女はとろんとしていた。
「……ゆっくりおやすみ」
 声をかけ、額にキスを落とした。