曲の最後、茜先輩のソロにも近い部分に差し掛かったそのとき、翠がはっと茜先輩に目をやる。
 何があったのかは定かではないが、翠には「異常」と取れる何かがあったのだろう。
 次の瞬間には翠も歌い始め、その手には茜先輩の手がしっかりと握られていた。
 いつもなら、何があったのか、と不安が先に立つものの、今は違った。
 翠にもできることがある。
 いつも助けられてばかりなわけではない。
 翠にしか助けられない人がいる。
 翠――翠の手は決して大きくもなければたくさんのものを抱えることもできないかもしれない。
 でも、ほかの人間が抱えられないものを持つことができたり、到底手を差し伸べられないような場所にいる人間にだって躊躇なく手を伸ばせる。
 そんな強さがある。