たかが歌――そう思っていた。
 茜先輩の歌に鳥肌が立つのは毎度のことだが、そういうことではなく……。
 歌う人間がふたり。
 そのふたりの心が通っているのが一曲という時間でわかるなんて思いもしなかった。
 茜先輩は翠のために歌い、翠は茜先輩のためにこの歌を歌っている。
 そんなことが、ただ見ているだけの俺にも伝わった。
 歪なんてどこにもない。
 あるのは、目の前の人間を信頼しているという強い眼差しのみ。
 ふたりの目は雄弁にものを語る。
 それは、取り繕われた演技などではないだろう。