俺がベッドに上がるとよりいっそう驚いた顔をされる。
 そんな彼女のごく側に横になり、彼女を胸にしまうように背中に腕を回した。
「泣くときはさ、俺のとこで泣いてよ」
 返事はない。けれど、その代わりと言っていいだろうか。
 彼女の体から力が抜けて、俺の胸にぴたりとくっつく。
「そう……力を抜いて? せっかく側にいるのにそんなに緊張していたら疲れちゃうでしょ?」
 こうしていると森林浴に行ったときのことを思い出す。
 あの頃はこんなに彼女のことを欲するようになるとは思いもしなかった。むしろ、司と付き合うことにならないか、と望んでいたくらいなのだから。
 彼女は俺の胸もとで深い呼吸を繰り返していた。
 彼女にとっての緊張を解くための儀式なのかもしれない。
 すると、
「……なんの香りですか?」
 と、尋ねられた。
「……あぁ、ケンゾーのローパケンゾーって香水。嫌い?」
「いえ……水みたい。森林浴をしているときに感じるような香り……」
「それは嬉しいかな。……そういえば、今日はシャンプーの香りしかしないけど、いつも何かつけてるよね?」
 ずっと気になっていた彼女の香りについて尋ねてみる。と、
「え……香り、きつかったですか? 寝る前に一吹きしかしないんですけど……」
「いや、至近距離じゃないとわからないくらいだったけど……」
 今度は俺の言葉で真っ赤になってしまった。