「……なっちゃん先生、今、恋愛駆け込み寺の扉は?」
 彼女は少し意外そうな顔をして、「いつでも開いているわ」と答えた。

 桜林館の天井近い位置にあるここは、昔話やこれまでのことを話す場所に相応しいとは言えない。
 が、とても話しやすい環境だった。
 まず、手に取るように人の動きが見えること。
 インカムには逐一報告が入ってくるものの、俺が返事を要すものは今のところない。
 そして、この大音量ともいえる音のもとならば、誰に聞かれることもなかったからだ。
 なっちゃん先生と俺はとくに親しい付き合いをしてきたわけではないし、今だって会えば軽く挨拶をする程度。
 ただ、昔――高校三年生のときに一度だけ、なっちゃん先生の旦那さんも交えて長時間話をしたことがあった。