「あ、き、と、くんっ!」
 ふわりと甘い香りがして女性の腕が絡みつく。
 しかし、不快に思う香りではない。
 この人がつけているには分相応で、とても似合っているからだろう。
 誰かが近づいてくる気配はしていたし、その香りと足音で人物の特定はできていた。
「なっちゃん先生、珍しいですね? 特教棟を出てこられるなんて」
 なっちゃん先生とは、俺が高校三年のときに着任した養護員教諭の玉紀奈津子(たまきなつこ)先生。
 当時、若くきれいなこの先生見たさに何人の男子生徒が保健室に通ったか知れない。
 が、今は外部講師という形に変わり、主に藤宮学園での性教育を取り仕切る人間だ。