トン、と背中を押された。
 振り返ると翠葉ちゃんがいた。
 私の背を押した手は所在無さげに宙を彷徨ったまま。
 肩にかけられたケープから伸びる腕は細くて白い。
「翠葉ちゃん……?」
「行って? 香乃子ちゃん、今、追いかけたいと思っているでしょう?」
「でも、私……翠葉ちゃん付き」
「大丈夫だよ。本当に大丈夫。私は自分の出番までここにいればいいのでしょう?」
「でもっ――」
「飲み物は手に持っているし、なんの問題もないよ。だから、行って?」
 周りはざわついているのに、私の耳には翠葉ちゃんの声のみがクリアに聞こえる。
 翠葉ちゃんの声が、私の心に真っ直ぐ届く。