「でも、苦行だと思ってがんばってください」
 口もとにスプーンを運ぶと、彼女は条件反射のように口を開いた。
「食べられそう?」
 彼女は赤い顔をしてコクリと頷いた。
「良かった。今日はアンダンテでプリンを買ってきたから、それもあとで食べようね」
 少しずつ少しずつ彼女の口へゼリーを運ぶ。
 たったこれだけの分量――手におさまる大きさのデザートグラスを空にするのに二十分ほどはかかっただろう。
「はい、完食。薬を持ってくるね」
 立ち上がると、クン、と引っ張られる感触があった。
 視線を落とすと、彼女がスラックスをつまんでいた。
「どうかした?」
「あの……食べさせてくれてありがとうございます」
 きちんと俺の目を見て言ってくれた。
 そんなことがひどく嬉しいと思う。
「……どういたしまして。昨日、若槻にこの役取られたからね。今日は翠葉ちゃんを独り占めさせてもらうよ」
 そう言うと、すぐに視線を逸らされてしまう。
 彼女の頭を軽くポンポンと叩き、
「どんな君でも好きだって言ったでしょ?」
 本当は抱きしめたいところだけれど、彼女はそれどころじゃないだろうから、妥協してサラサラの髪に触れたんだ。