それを彼女に差し出し、
「顔を拭いたらリセットできそうでしょ?」
 困った顔も泣き顔も、全部かわいいけど、本当は笑った顔が見たいんだ。なのに、彼女は困った顔のまま。
「あれ? どうしてまた困った顔?」
 彼女はタオルに顔をうずめたまま答えた。くぐもった声で、
「秋斗さんが優しいから困る」
「俺が優しいと困る?」
「嬉しいけど困ります」
 彼女が持っているタオルを奪い取り、
「じゃ、もう少し困ってもらおうかな」
 と、意地悪な笑みを浮かべてみせる。
 俺の手にはゼリーが入ったデザートグラス。
「これ、食べてね。食べてもらわないことには俺が栞ちゃんに怒られるんだ」
 昨日もスープを飲ませたかった。けど、あの場は若槻に譲るしかなかったからね。
 念願叶ったり……と彼女の顔を見ればがっかりする。
「翠葉さん、眉間にしわ寄ってますが……」
 俺はあと何度こんな彼女を見たらショックを受けなくなるんだろうか。
「ショックだなぁ……。昨日は若槻にスープ飲ませてもらったのに俺はだめ?」
「だめと言うか……恥ずかしいから嫌なだけですっ」
 今はその答えで十分、かな。願わくば、目くらいは合わせてもらいたいところだけれど。