両の手の、親指から薬指までの八本をフルに使い、弦にセットした指にぎゅっ、と力を入れる。
 弾いているわけではないので、音は鳴らない。
 こうすることで、弦にいつも以上の張力がかかり、ナイロン弦が伸びたり、弦自体が緩む。
 今、私はわざと音程を狂わせるような行動をしていた。
 調弦の前に、弦が伸びるように目一杯引っ張っているのだ。
 低音のワイヤーが長時間ピッチを維持できるのは、弦がナイロンではなくワイヤーだから。
 ワイヤー弦には伸び代がない。
 ワイヤー弦を干渉できるのはボディとフレームの木枠部分だけ。
 湿度の関係で膨張したり収縮する木の性質だけに左右される。
 左右といっても、ナイロン弦に比べたらわずかなものだ。