小さな四角い機械から、私の歌い始めの音がずっと流れていた。
「ありがとうございます」
 優しい気遣いに緊張している心が少し緩む。
 今日は何度こんな優しさに触れただろう……。
「用意できたら上がっておいで。準備万端で待ってるから」
 ベースの風間先輩に言われてコクリと頷いた。
 みんなは私を置いて先にステージへ上がってしまう。
 私はみんなが上がったあと、一番最後に歌いながらステージに上がる。
 本当は歌いだしたらすぐにピアノの伴奏が入るのだけど、この曲だけは歌いだしを少し変えてあった。
 最初の九小節は完全なアカペラ――私の歌から始まる。
 九小節で昇降機が完全に上がりきり、十小節目のドラムが入るところから演奏全体がスタートする。