会議が終わりパソコンを閉じる。
 時間を確認すると一時前だった。
「このあとは学校へ戻られるのですか?」
 気がつくと、末席にいた蔵元が俺の前に立っていた。
「いや、これからマンションに戻る」
「仕事、なさいますよね?」
「小姑だな、ちゃんとするよ。ただ、この時間は翠葉ちゃんがひとりなんだ」
「それでしたら仕方ないですね。翠葉お嬢様のご容態は……?」
「正直、あまり良くない。今は体を起こすこともままならない」
「それは心配ですね……。仕事は割り振って少し唯に回しますが、秋斗様でないとできない処理もございます」
「わかってる。いつも助かってるよ」
 その一言が会話の終わりを示していることに気づき、蔵元が一歩下がる。
 席を立ち出口に向かうと、思わぬ人物に待ち伏せされていた。
「じーさん、何してるんですか……」
「会社の中では会長と呼べと言うておろうが……」
 いつものように和服の出で立ちで待ち構えていたのは、紛れもなく藤宮グループの会長だった。
「会長、ご用件は?」
 訊き直すと、
「待てども待てども秋斗が水筒を持って来ぬからじゃろう」
 しまった……。
 赤い水筒はまだ自宅にある。