でも、離してほしかったわけじゃない。
「手、つないでもいい?」
「……手首を掴んでいたのとそう変わらないと思うけど?」
 肩越しに不思議そうな顔で言われたけれど、そこは断じて否定したい。
「掴まれているのとつなぐのは違うよ? 手をつなぐのは一方的じゃないでしょう……?」
 そう言うと、ほんの少し間があってから、「ほら」と左手を差し出された。
「手、ずいぶん冷えてるけど――何を話した?」
「……それは内緒」
「…………」
「だって、茜先輩と私の秘密だもの」
 そんなふうに言えるのは、この暗さとぬくもりのおかげ。