十階に着くと家に電気が点いていた。
「どうやらうちの愚弟がいるみたいよ」
「……愚弟って、めちゃくちゃ頭いいって話じゃないっすか」
「そうね。頭のできはいいんじゃないかしら? 顔は私に瓜二つだから拝んでいくとご利益あるわよ」
 玄関に入るとすぐに司が出てきた。
「おかえり」
「ただいま。あんた夕飯は?」
「適当に食べた。……そちら、どちら様?」
 視線が私の後ろにいる若槻を捕らえていた。
「秋斗の部下、ウィステリアホテル在中の若槻唯。名前くらいは知ってるでしょ?」
 その問いかけに頷くと、
「司です。いつも秋兄がお世話になっています」
 と、頭を下げた。
「若槻唯です」
 ふたりを見ていたものの、その先に会話が続かない。
 ちょっと待て……。
「あんたたち、それでおしまいっ!?」
「「ほかに何が?」」
 ……どこか似てるとは思ったのよ。この素っ気無さというかなんというか……。
 素っ気無いは素っ気無いなりに、若槻のほうがまだ喋るかもしれない。
 だけど同じような人間が揃うとこうも会話が続かないものか……。
 思わず頭を抱えたくなる。
 いや、そこは海斗がふたりいたら延々と喋り続けていてうるさい、という事態を想像して相殺しておこう。