玄関を出て若槻とふたりエレベーターホールに並ぶ。
「この、カウンセリングサボり魔」
「……あんなの意味ないし」
 お互い、エレベーターの扉を見つつ吐き捨てる。
 まだ扉の奥は暗く、そこに華奢な体が映っていた。
 身長は伸びたけど相変わらず華奢ね。
 若槻は女装させたらそこらの女よりもきれいに化けるだろう。
 もともとの中性的な顔立ちがそう見せる。
「で? 少しは前に進めそうなのかしら?」
「…………そうっすね。お姫さんの側にいたら何か変わるかも」
「なんでそう思ったの? 翠葉に妹さんかぶせてる?」
「それはあるかも。ベッドに横たわっているお姫さんを見た時は正直妹とかぶりましたし」
「で、あえて兄に立候補?」
「自分、窮地に追いやってみようかと」
 若槻は訊いたことに淡々と答えた。
 こんなことは未だかつてなかった。でも、だからと言って嘘が含まれているようには思えない。
「……自ら結構な荒療治に出たわね」
「たぶん、時間かけてどうこうってのは向いてないんです。他人に懐柔されるのも色々訊き出されるのも大嫌い。関心もない人間に自分のことを話すのなんて真っ平ごめん」
 なふほど……。
 エレベーターに乗り込むと、若槻は態度悪く壁にもたれかかった。
「自分の中に色濃く残っているのは後悔なんです。なら、やってやりたかったことを代わりの誰かにすることで払拭できるかなって、結構安直な考えですけど……甘いっすかね」
「ま、一方法としてはありなんじゃない? 何事もやってみなきゃわかんないでしょ」
「そりゃそーですね」
 気にかかっているのは妹のことのみか?
 若槻が両親の話をすることはほとんどない。何か零すときは必ず妹のことだ。