「あいつ、自分のことは話さないからさ。俺達は若槻に起こったことは新聞や警察の人間から聞いたことくらいしか知らなかったんだ」
「……警察って?」
 あぁ、誤解が生じるな……。
「若槻が警察に厄介になったとかそういうことじゃないよ」
 付け足すと、蒼樹は席に着いて「いただきます」とフォークを手に取った。
「結構ひどい話だよ。当時若槻は十九歳、専門学校に通っていた頃の話だ。若槻の妹さんは芹香ちゃんっていうんだけど、彼女は心臓移植が必要な患者さんだったらしい。けど、手術費用がなくて、いずれ死にゆく娘を前に、両親が無理心中を図った。そんないきさつから若槻は家族を三人同時に亡くしてる」
 カシャン――蒼樹が手にしていたフォークを落とした。
「あ、すみませんっ――」
 そのフォークを拾うと、
「新しいのを持ってくるわ」
 と、栞ちゃんが席を立った。
「父親は保険金が若槻残ると思っていたらしいが、自殺のため両親の保険は適用外と判断され、保険金は下りなかった。後日、父親名義で借りていたアパートも追い出され、若槻は学校を辞め、手に残ったパソコンのみで生活をすべくハッカー、クラッカーになる。たまたまうちの会社に手を出したのが運の尽きというか……そこで俺が拾った」
 淡々と言葉にしてみたが、やっぱり壮絶、だな。