これは「小道具」として作られたものだけど、私にとってはとても優しい椅子で、私のために作られたというこの衣装も、とても着心地がよく思えた。
 それはきっと、作り手の気持ちが存分にこめられたものだから。
 この会場に用意されたものはどれも優しいものたちだと思う。
 丹精こめて育てられたお花も、この日のために時間をかけて焼き上げられた花器も、自分だけを見つめて懸命にいけられた枝やお花も――。
 ここにあるものはすべて、人の想いが注がれて生まれてきたもの。
 ステージも音楽も何もかもが優しさで満ちている。
「翠葉ちゃん、座ろうか」
 立ったまま椅子の背もたれを撫でていた私は空太くんに促されて座る。
 この世にたったひとつしかない特別な椅子に。
 すると、カツン、という靴音と共に長身の女性がふたり現れた。