茜先輩たちは北側の半月ステージからのスタートということもあり、更衣室を出てからは一度も姿を見ていなかった。
 私が上がる昇降機中央には椅子が用意されていた。
 この椅子は、私が座るために演劇部の小道具担当の人が作ってくれたもの。
 見た目がアンティークっぽくて、細身の椅子ながらも背もたれが高めなことから安心して背を預けられる。
 椅子の高さは私の座高に合わせて作られていることもあり、深く腰掛けても床に足がつかないということもない。
 いつかお父さんが言っていた。
 ――「使う人のことを考えて作られたものは、何よりも使いやすいし、優しさから生まれたものなんだよ」
 と。