「あーぁ……。その役、俺がやりたいの山々なんだけど……。しょうがない、若槻に譲るか」
 今日は若槻に譲ってばかりだ。俺が全然彼女と話せていない。
 正直、面白くないといえば面白くはないが――。
 部屋を出る間際、ちら、と若槻の様子を盗み見る。
 ……いい薬になるかもしれない。

 リビングへ行くと栞ちゃんが夕飯の用意をしていた。
「簡単なものでごめんなさいね」
 と、グラタンらしきものを運んできた。
「ジャガイモとハムのドリアとサラダのみ」
「いや、全然簡単なものに見えないから大丈夫」
 チーズがこんがりと焼けていて美味しそうだ。
 栞ちゃんも席に着くと、
「……若槻くん、大丈夫そう?」
 と、心配そうに訊いてくる。
「たぶん、大丈夫……かな?」
「カウンセリングもさぼってるって湊から聞いてたから少し心配だったのよね」
 あぁ、確かにそんなことを言われた気がする。
「若槻は喋らされるの嫌いだからね。自分から話す分にはいいらしいんだけど、聞きだされるのはすごく抵抗があるらしい」
「なるほどねぇ……。一般的なカウンセリング向きの患者じゃないってことかしら」
 俺が拾ってきたときからカウンセリングには行かせてはいたが、それが吉と出ることはなかった。