「……え? お父さんとお母さんは?」
 すぐに問い返したのは翠葉だった。
 彼は、「いないよ」と苦しそうに答えた。
 妹だけじゃなくて両親もいないのか……!?
 もしかしたら、俺が思っているよりももっと深い傷を負っているのかもしれない。
 秋斗先輩に、少し彼のバックグラウンドを聞いておいたほうが良さそうだ。
 そんな彼の頭をポンポンと叩く。
 彼は下を向いたまま何も言わない。
 泣けるなら泣いたほうがいい……。
「じゃ、あとは頼むな」
 翠葉の食事は彼に頼み、彼のことは翠葉に頼む。
 互いに互いを頼みながら部屋を出た。
 若槻くん、君が深い傷を持っているのはなんとなくわかった。でも、もし翠葉と接することでその傷が癒せるのなら、今はその傷ついた羽を休めればいい――。