翠葉の部屋から聞こえてきた声は――。
「そんな状態じゃ仕事にも手が付かない。だからね、会いたくなったら会いに行くことにした。若槻のことが気になるから来たっていうのもあるんだけど、そっちはついでかな?」
 あぁ、まったくこの人は……と思っていると、俺の後ろにいた若槻くんが前へ出た。
「秋斗さん、相変わらず人をダシに使うのがうますぎます」
 翠葉は若槻くんに驚いたようで、こちらに釘付けになっている。
 若槻くんも同じように翠葉をとらえていた。
 部屋に一歩足を踏み入れ、
「お姫さん、ごめんね……」
 と、謝る。
「いえっ、あのっ――私こそごめんなさい」
「っつか、お姫さん悪いことしてないじゃん。俺が勝手に動揺してるだけだから」
 そこまで言うと、一度深呼吸をして、
「申し訳ないのですが、慣れるまでちょこっとリハビリさせてください」
 と、腰を直角に折り曲げた。
 翠葉はその行動につられるように体を起こす。
「翠葉っ」
 自分が駆け寄る前に若槻くんが手を伸ばした。そして一番近くにいた秋斗先輩よりも早くに翠葉の身を支えた。