設定が粗方済んだ頃、
「栞ちゃんは?」
 と、先輩に訊かれた。
「買い物に出てます」
 自分たちがここに着いたときには引っ越し業者が最後の荷物を運び込んでいるところだった。それが終わったのを確認すると、「買い物に行ってくるわね」と出ていったのだ。
 そんな話をしていると、見計らったかのように栞さんが帰ってきた。
「あら、若槻くん久しぶり! 背、伸びた?」
「いえ、伸びません。数週間前に会ったばかりじゃないですか……」
 なぜか彼の人とのやり取りはおかしく聞こえる。
「今日は食べていくでしょう?」
 訊かれると、彼は秋斗さんを仰ぎ見た。
 こんなところは少し翠葉と似ている。
「おまえが決めていいけど、せっかくだから食べていこう」
 秋斗先輩がその視線に答える。
「じゃ、御馳走になります」
「良かった! うんと腕を揮うわ」
 栞さんがキッチンへ入ってくと、
「いつ見てもかわいらしい人ですよね? オーナーとは似ても似つかない……」
 と、零す。
「若槻、あの人はやめておけ。あれはリスの皮をかぶった猛獣使いだ。で、旦那は正真正銘の猛獣だ。メスで八つ裂きにされるのが関の山」
「……それはやめておこう」
 ふたりして、いったいなんの会話をしてるんだか……。