俺が高二のインハイで優勝できたのは、葵のおかげと言っても過言じゃなかった。
 葵の観察力は半端ない。何度もフォームの指摘をされ、それを直すたびにタイムアップにつながった。
 ――ってことはだ……。
「蒼樹のフォーム、直し時なんじゃない?」
 俺がたどり着いた答えをそのまま言われる。
「蒼樹、おまえは短距離専門だったけどさ、翠葉ちゃんに関しては長距離選手にならないといけないんじゃない?」
 短距離に長距離……。確かに、今のままじゃそんなに遠くまでは走れないのかもしれない。
 ペース配分が必要、か――。
「本当に……神様はいるのかもしれない。俺、今日葵に会えたことを運命のように感じるんだけど」
「……そういう台詞はさ、誰か好きな女でも作って言えよ」
 と、呆れられる。
 すると、珍しく栞さんが吹きだすように笑った。
「でも、高崎くんの言うとおりよ。蒼くんは少し体勢を直したほうがいいわ」
「……はい、そうします」
「さ、出ましょう!」
 栞さんに言われて車に乗り込んだ。