律ちゃんに訊いたら、奥さんはいつものところにいるとのことだった。
「いつものところ」とは祠のこと。
 こんな山の中にひっそりとそれはある。
「碧」
 祠の前で手を合わせる奥さんに声をかけた。
「終わったよ。相馬先生から連絡があった」
 翠葉とそっくりな大きな目から涙が零れる。
「これね、翠葉が吐き出した『すべて』だって」
 俺が手に持っているのはミュージックプレーヤー。
 その中には翠葉と相馬先生のやり取りを録音したものが入っている。
「俺もまだ聞いてないんだ。俺は聞こうと思うんだけど、碧はどうする?」
 翠葉の心の中。
 それは、もしかしたら翠葉が俺たちに言いたくないと言った言葉の羅列なのかもしれない。