光のもとでⅠ

 ――「この木は優しいんです。冬は人に陽射しを届けるために自分の葉っぱをすべて落とし、夏はその葉を茂らせ、影を作って涼しさを分けてくれる。ね? 優しいでしょう?」

 藤山でそう言って笑った彼女を鮮明に思い出す。
 木が優しいなんて考えたこともなかった。
 嫌いなのは痛みであり、雨ではない。
 憂鬱にならないといったら嘘になるけれど、それでも嫌いなわけではないと言っていた。
 どんな季節にもつらさは伴う。
 だから、強くて美しいものばかりを見ようとしたのだろうか。
 彼女が話すことはいつだってきれいなものであふれていた。
 たとえそれが循環されて噴き上がる噴水の水であろうと、彼女の目にはきれいなガラス玉として映る。
 ――翠葉フィルター。
 その目に映るものを教えてくれることはあっても、今日みたいに心の奥底にあるものを話くれたことは一度もなかったね。