「翠」
 声をかけても身じろぎひとつしないなんて珍しい。
「寝るときバタバタしてて、携帯のアラームもかけてなかったからね」
 ソファの向こう側に回り翠を見下ろすと、なんとなく泣いたあとのような気がした。
 再度翠の名前を呼ぼうとしてやめる。
「秋兄、何かあった?」
 翠を起こさないよう声量を抑えて訊く。と、
「おまえには関係ないよ」
「っ……!?」
「補足するなら、俺にも関係ない。彼女にしか関係のないことだ」
「何それ」
 訊いておきながら早くも後悔。
 訊く必要も深く考える必要もなかった。